秋の夜長、ちょっと不思議であったかな気分になる「おやすみ、東京」。

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おすすめする本

「おやすみ、東京」 | 吉田篤弘


58歳 | 男性 | 無職 | うつなんです

 あまんきみこさんの童話に「車の色は空の色」という名作があります。同じタクシーのお話でもこちらは深夜タクシー。夜空の色のタクシーの運転手である松井さんが出会う、ちょっと不思議な人たちのお話です。
 「新鮮なびわ」を探す小道具担当の女性を乗せたタクシーが出会うのは、テレフォンセンターに勤める「びわ泥棒」を趣味とする素敵な女性。たまたま乗せた男性は名探偵で映画好き。その名探偵が通う小さな映画館の館長の青年が話すのは、名探偵もよく知らなかった父の事。タクシーの運転手が通う定食屋の四人の女性の一人が名探偵を知っていて・・・。と、話はどんどんあらぬ方向へと進み、いつの間にかみんなが、ほんわかとした時間の中で結末らしきものに向かっていく。そんな連作の短編が並んだ本です。一つ一つだけでも面白いし、関係が分ってくるとどんどん先を読みたくなるし、残りページが少なくなるのが何だかもったいなくなり、ついページをめくる手がゆっくりになってしまったりもします。
 一つ一つの登場人物からどんどん別のお話ができていくようにも思え、一つ話が終わるたびに、この人はこれからどうなるのかと、自分でもあれこれ想像して楽しんでもいます。堅苦しくない文章で、一つ一つのそれほど長くもなく、気軽に読むことができ、それでいてしっかりお話に取り込まれてしまいそうになる不思議な一冊です。

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