京都を舞台にした知的なユーモアあふれる名作「夜は短し歩けよ乙女」を読む。

「四畳半神話体系」が異色のアニメ監督湯浅政明氏によってアニメ化されたことでますます注目を集めることになった、京都出身の作家森見登美彦氏による青春ユーモア小説です。
　森見さんの他の作品にも共通していることですが、この小説の魅力はなんといってもその洒脱な文体と、他に類を見ない独特な世界観だと思っています。舞台は京都という現実に存在している土地でありながら、描かれるのはどこまでが幻想なのか判然としない様な町や人の姿ばかり。物語を読み進む内に、魔力に知らず識らずの内に引き込まれていくこと間違いなしです。
　さらに登場人物たちも個性派揃い。煙管の煙で宙に浮く謎の浪人樋口、3階建てのバスを住処とする夜の京都の支配者李白老人、恋愛が成就するまでパンツを絶対に履き替えないと神に誓ったパンツ総番長など、並の発想では到底思いつかないような奇人変人たちがこれでもかとばかりに登場します。
　小説の世界はすでに表現が確立してしまって、他の作家のコピーばかりが並んでしまっているような現状に思えますが、そんな中でもここまで他の作品とは似ても似つかない独自の世界を構築できる作家はそうはいないのではないでしょうか。
　もしまだ未読の方がいらっしゃったらぜひ一度手にとってみてください。ハマること間違いなしです。